※弊社から依頼し、いただいたコメントを編集して掲載しています。
パナソニックの家電サブスクサービス「noiful(ノイフル)」は、“軽やかな住まい方”という価値観を大切にしています。引っ越しに伴う家電まわりの手続きや作業の負担を軽減できるといった具体的なメリットはもちろん、モノを持たずとも自分らしく生きる精神的な軽やかさ、ひいてはその輪が広がり一人一人がハツラツと暮らせる社会の実現に向けて、サービスを展開しています。
でも実際、“軽やか”ってどういう状態なのでしょう?
自分が軽やかに日々を送れているかと聞かれたら、どうでしょうか?
そこで、軽やかさを体現していると思う人たちの言葉から、これからの自分らしい生き方や軽やかなくらしのヒントを探していくインタビュー企画「“軽やかさ”を考える」をお送りしています。
今回のゲストは、京都・両足院の副住職である伊藤東凌(とうりょう)さん。伝統を重んじながらも、言葉の選び方や、アート等ジャンルの枠を超えたコラボレーション、デジタルを駆使した取り組みなど、仏教を現代に活きるかたちで広めることに力を注いでいます。そうやってボーダレスに動かれる姿は、まさに軽やか。
「軽やかさは禅と深い繋がりがあるんですよ」と語る伊藤さんに、お話を伺います。
伊藤東凌/臨済宗建仁寺派両足院副住職
建仁寺派専門道場にて修行後、20万人以上に坐禅指導を担当。アメリカMeta本社(旧Facebook)での禅セミナーの開催などアメリカ、そしてアジアやヨーロッパ諸国での禅指導など、インターナショナルな活動も積極的に行う。『Forbes JAPAN』にて「 Next100」『Newsweek』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。
今年のはじめに「2025年はノマド的な生き方を加速させたい」と語った伊藤さん。もとは遊牧民を表す“ノマド”という言葉は、現代では各地を旅しながら生活する自由なライフスタイルを実践している人を指す。お寺という拠点があるなかで、そう考えるに至った背景は何だったのだろう。
「禅には、『放てば手に満てり(はなてば てに みてり)』という言葉があります。ずっと何かを握り、所有することで気持ちが満たされると思われがちですが、持ち物や人間関係、概念…凝り固まっているものを放つことで自然と新しく満ちてくるものがある。そのためには、いつもの日常から少し離れなにかを変えてみることがポイントです。
私は実際にノマド生活を送るのは難しいのですが、特に2025年は、視野を広げるためにもノマド的な軽やかな思考を加速させたいと考え、現在進行中です」
京都の賑やかな祇園花見小路を南に進むと、建仁寺の大きな境内にたどり着く。喧騒から離れたそこに建つ両足院で、伊藤さんは生まれ育った。
「掃除や坐禅をしている修行の様子は、子どもの目にも格好良く映り、自分も将来は禅の道に進むのかなと思っていましたね。一方で小学生時代に出会った恩師の存在から、人との出会いによって人の可能性がひらく瞬間に立ち会える教育というものに惹かれ、大学では教育学を専攻しました。卒業後しばらくは、お寺の仕事だけで食べていくのが難しかったこともあり、塾講師のアルバイトもしていたんです」
僧侶と塾講師。一見交わることのなさそうなふたつの肩書きだが、二足のわらじを履いて生活するなかで気づきがあった。
「体験入塾にならい坐禅体験を通じて禅に触れる機会を作りたかったのですが、当時の坐禅体験は開始が朝6時、料金はお心持ち、申し込みは往復ハガキとハードルが高かったんです。そこで、明朗会計で所要時間を分かりやすく設定し、手軽さを打ち出しました。革新的なことだったのでさまざまな声が上がったのですが、結果として多くの方が集まり、教育の本質である出会いによって人が変わる瞬間に立ち会うことができました。そして、坐禅体験を始めて4年後には、お寺の仕事一本に集中しようという覚悟と自信が湧いてきたのです」
坐禅や瞑想に関心を持つ方が増え嬉しく思う反面、禅を通して心を整えたいと考える人々の多さに驚いたという。
「心配ごとやTO DOが無意識に脳内で再生されている方が多いと感じます。解消するためには、まずその状態に気付くことが重要。坐禅はその手段のひとつです。坐禅中の理想は、空間に溶け込み、音や肌に触れる空気を感じること。その感覚を知り、自分だけの儀式のように簡単な瞑想としてアレンジすることをおすすめします。例えば、10秒間目を閉じて呼吸を繰り返すなどです。リセットの合図として、脳が覚えていきますよ」
コロナ禍でリアルに集うことができなくなると、オンライン瞑想会や心を整えるアプリを開発した。禅×デジタルという他には類を見ない試みに取り組む心境は?
「仏教の話になりますが、観音菩薩は、時と場所に応じて三十三もの姿に変化しながら人々を悩みから救います。私が行ってきたことも、古くからある教えを現代のツールやテクノロジーと組み合わせ、いまを生きる人が受け入れやすいように姿を変えてフィットさせるだけ。そんなシンプルな気持ちで臨みました」
noifulは、“not owning is fulfilling”からなる造語で「持たざることは満たされること」を意味する。伊藤さんは最近、日常生活のなかで“持たない豊かさ”を実感したシーンがあったそう。
「服の断捨離をしたんです。私はファッションが好きで思い入れの詰まったものもあったのですが、不思議と後悔はなく、人生が次の章に進んだような感覚になりました。それはなぜだろうと考えると、お布施が浮かんだ。お布施と聞くと、お寺や神社にお金を納めるイメージを持つ方が多いかもしれませんが、本来は自分の持っているものを、見返りを求めずに手放すことを意味します。手放すからこそ、次に進めるんです」
noifulは、家電をサブスクできるサービスだ。ライフステージが変わりやすいタイミングや、仕事の都合などでひとつの場所に短期間しか住まないことが分かっているのであれば、レンタルという手段がフィットする場合もある。モノを循環させる仕組みについても、話は及んだ。
「お守りや絵馬のお焚き上げのように、手放す時にお返しできる道筋があるといいですよね。noifulの家電は、使い終わっても廃棄されず、回収されてクリーニングが施された後に循環していく。無駄にならずに環境にも負担がかからないから、手放しやすくなる一歩進んだサービスだと思います」
そう話す伊藤さんは、身のまわりのモノのデザイン性にこだわり、住空間を整えているそう。noifulには、「noiful LIFE」といって、暮らす人の生活動線をふまえ、空間と調和したかたちで家電が備えつけられたリノベーション物件があることを伝えてみた。
「それは興味がありますね。本来『スーッ』と見渡せる空間が心地いいはずなのに、ノイズが邪魔をすると『スー、ドンッ』とリズムが崩れてしまう。そしてその違和感に『こういう理由で仕方ないから』と意味をつける。結果、意味のあるものに囲まれ、握りしめた手を開くことに臆病になってしまいます。逆に『noiful LIFE』のように、目に映る部分が整っているのであれば、何かを手放しても何かが満ちてくることに気づけると思います」
最後に、伊藤さんにとっての“軽やかさ”とは何か聞いた。
「自分を信頼し、未来を良くしていけると信じることですね。自分が未来をデザインできる存在だと強く信じて遠くを見据え続ければ、たとえ困難があっても軽やかに、いい方向に向かっていけると思います。
あとは子どものようにスキップしてみること。私も子どもと一緒にしてみることがあるのですが、軽快なリズムで気持ちも軽くなる。静かに整える坐禅と、跳ねて前進するスキップというふたつの動き、ぜひ試してみてください」
文/取材:宮﨑謙士